結局夫はカンヌに発った。
営業という名目らしい。
専門職が営業をするとは知らなんだ。
彼は一見非常におっとりした印象を人に与えるが、あれで実は業界ではけっこう有名で、彼の名前でクライアントをゲットできるようだ。
まあ、もともと自費でも行くつもりでいたわけだから、私には同じことだ。
20年来の親友と落ち合って、20年前と変わらずはしゃぎまわりたいのだ。
午前中は昼近くまで寝ていて、昼食は会社のお偉方たちと砂浜に設置されたレストランの会社専用のテーブルで延々と取り、午後は見たい映画があれば見に行き、何もなければ昼寝。
夜になったらスーツを着て上映に立ち合い、その後はパーティー。
朝方まで続く。
パーティーが仕事みたいなものだ。
こういう華やかな部分を好めないと映画の仕事はできないのかもしれない。
スター、シャンペン、パーティー。
このJET SET的な面こそが、marchand de rêve たる所以なのだろう。
だからこそ私は脱落したのだ。
テレビで見るカンヌは好きだが、行くならアヌシーがいい。
そんな私を夫はからかうが、だからこそ今の仕事が合っているのだとも思う。